鳥なき島より

読み返したコミックスについて思うところなど

2017年ベスト10

 2017年に読んだ海外コミックス(未訳)のベスト10です。今年最初で最後のエントリになります。どうしましょ。


10. Walter Simonson, Louise Simonson, Jon J. Muth, Kent Williams, Havok & Wolverine: 
Meltdown Vol.1~4 (Marvel Comics, 19881989) 

Havok and Wolverine: Meltdown #1 (of 4)

Havok and Wolverine: Meltdown #1 (of 4)

 

  ウルヴァリンとハボックがダブル主演するミニシリーズ。Epicレーベルから発表された作品で、ストーリーはあってないようなものですが、アーティストもダブル主演というのがミソ。ウルヴァリンパートをケント・ウィリアムズが、ハボックパートをジョン・J・ミュースが担当しています。水彩をメインとした2人のアートはまぁ眼福。日本のAmazonだとKindle版しか出ませんが、是非紙で読んでいただきたい。ミュースの担当パートで、ハボックがジェームズ・ディーンに、そして本作の鍵を握るキャラクター、ニュートロン博士がマルセル・デュシャンそっくりなのも楽しい。

 

9. Asaf Hanuka, The Realist (Archaia, 2015) 

The Realist

The Realist

 

  イスラエルイラストレーター/コミックアーティストであるアサフ・ハヌカによるエッセイ風フィクション(あるいはフィクション風エッセイ)。「Comic Street」にレビューを書かせていただいたので、詳細はそちらで……

 ハヌカと言えば、絶版だったPizzeria Kamikazeの新装版が2018年3月に出るので要チェックです。エトガル・ケレットと組んだ作品ですね。楽しみ。

 

8. Pablo Auladell, Paradise Lost: A Graphic Novel (Jonathan Cape, 2016) 

Paradise Lost

Paradise Lost

 

   スペイン人イラストレーター/コミックアーティストであるパブロ・アウラデルによる『失楽園』のコミック・アダプテーション。ミルトンの原作を四部に再構成し、サタンががっつり主役になっています(テキストは割と原作に忠実)。神、天使、悪魔、そして原罪を背負う前の人間といった、言ってしまえば人ならざる異形達のオンパレードで楽しい。アダムとイヴが知恵の実を食べてお互いをなじりあう場面の人間臭さ(というかメロドラマ感)と、それ以前のキャラクター達の異形っぷりとのギャップが凄まじいのは原作と同じですが、表情や目の表現から、ビジュアルの力の強さを痛感させられました。青を基調とした画面が、異形達のある種の冷やかさを見事に描きだしています。アートの質はコミックスというよりイラストレーションのそれで、制作期間が長かったことからスタイルの変遷も楽しめます。お得ですね。

 

7. Dave McKean, Pictures That Tick Volume 2 (Dark Horse Books, 2014) 

Pictures That Tick Volume 2

Pictures That Tick Volume 2

 

  デイブ・マッキーンの短篇集第2弾。第1弾もそうでしたけど、マッキーンの短篇集はアートもストーリーも多彩で、もうお祭りですよ。本作では、冒頭のSky Womanと末尾のTsichtinako, the Spider Womanが白眉。どちらも創世神話で、しかもマッキーンの長篇Cagesに組み込まれているとか。そ、そうだったっけ。読み返さなきゃ……

 あと、マッキーンはBlack Dog: The Dreams of Paul Nash (Dark Horse Originals, 2016)も面白かったです。

 

6. Emily Carroll, Through the Woods (Faber & Faber, 2015) 

Through the Woods

Through the Woods

 

  Webを中心に精力的に作品を発表しているエミリー・キャロルのホラー短篇集。正直、こういうデフォルメの効いたカートゥーン系(と言っていいのかな?)の絵柄はあまり得意じゃないんですけど、ひたすら面白かった。おとぎ話のような世界で語られる、ノスタルジックな夜の恐ろしさ。この絵柄だからこそ怖い。そういう作品が目白押しで新鮮でした。

 

5. Joe Daly, Scrublands (Fantagraphics, 2006) 

Scrublands

Scrublands

 

  ロンドン生まれケープタウン育ちのジョー・デイリーによる短篇集。カラーもモノクロも、幻想も風刺も、ダウナーもアッパーもあるといった具合です。アニメーションの勉強をしていたとのことで絵はすこぶるうまいし、スタイルのバリエーションも豊富。大雑把に言えば、ロバート・クラムとかダニエル・クロウズとか、いわゆるオルタナ系に分類されてもおかしくないアートなんですけど、何かが違う。妙な明るさがあるんですね。スタイルにも内容にも。アフリカ的マジックリアリズムって感じでしょうか。エイモス・チュツオーラみたいな。あるいは水木しげる的な南の感性というか。脱力というより関節が外れている、みたいな。その強烈な違和感が面白かった。

 デイリー作品では長篇Highbone Theater (Fantagraphics, 2016)も読みましたが、9・11が主要なモチーフになっていて、これまた一筋縄ではいかない怪作でした。

 

4. Rutu Modan, The Property (Jonathan Cape, 2013) 

The Property

The Property

 

  ルトゥ・モダンはアサフ・ハヌカと同じくイスラエル人の作家。本作は2014年のアイズナー賞(Best Graphic Album)を受賞しました。遺産相続のために孫娘ミカを連れてイスラエルから祖国ポーランドへ向かうレジーナ。しかし彼女の本当の目的は……というお話です。ユダヤ人であるレジーナと自立した独身女性ミカ。この2人の(正確にはレジーナの親から数えて4代に渡る)物語を紡ぎ出すストーリーテリングのうまさにはびっくり。去年読んだExit Woundsよりさらに巧みになっていました。例によってユーモアも健在。彼女の作品は結構追っていて、全作レビューしたいくらい好きなので全作レビューしたい。短篇もいいんですよ。

 

3. Alessandro Sanna, Pinocchio: The Origin Story (Enchanted Lion Books, 2016 

Pinocchio: The Origin Story

Pinocchio: The Origin Story

 

  イタリア人イラストレーター/コミックアーティストであるアレッサンドロ・サンナによる『ピノッキオの冒険』のオリジン。原ピノッキオの物語。こちらも「Comic Street」にレビューを書かせていただいたので、詳細はそちらで……

 

2. Jack Kirby, Jack Kirby's New Gods (DC Comics, 1998) 

Jack Kirby's New Gods

Jack Kirby's New Gods

 

  今年はジャック・カービーの生誕100周年でしたね。カービー作品は他にMister MiracleO.M.A.C、あとは『マイティ・ソーアスガルドの伝説』(小学館集英社プロダクション)くらいしか読んでいませんが、なかでは本作に度肝を抜かれました。これは白黒版なので度肝だけで済んだけれど、カラー版だったら何を抜かれることやら……

 

1. Marti Riera, The Cabbie (Catalan Communications, 1987) 

The Cabbie

The Cabbie

 
The Cabbie 1

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  • 作者: Marti,Kim Thompson,Art Spiegelman,Katie LaBarbera
  • 出版社/メーカー: Fantagraphics Books
  • 発売日: 2011/10/10
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The Cabbie 2

The Cabbie 2

 

  マルティ・リエラはスペインの作家。キャブ(タクシー)の運転手、キャビーがタクシー強盗を返り討ちにするも、このタクシー強盗がならず者一家の主だったことからキャビーの生活は悪夢へ変貌する……というお話なのですが、いやはや。大袈裟に言いますけど、シェイクスピアホドロフスキーを混ぜて、チェスター・グールドとヒルベルトエルナンデスで固めたような作品です。全コマTシャツにしたい。私が読んだのはCatalan Communications 版で、調べたところ現在絶版となっていますが、Fantagraphicsから新版が出ているようで、素晴らしい。と思ったのですが、Catalan Communications版はFantagraphics版の1巻に相当していて、Fantagraphics版では2巻が出版されており、そのくせ2巻だけ在庫がないという状況であることが判明して、今、動揺しています。

 

 今年は海外コミックス関連のイベントや展示に足を運ぶ機会が多く、そこで素晴らしい作品に出会うこともしばしばでした。楽しい時間をありがとうございました。来年はもっと多くの作品を読んで、レビューも書いていきたいと思います。あとフランス語も勉強したいし、宝くじとかも当てたいです。

 

 それでは良いお年を。